「子供を叩く父親」どう止める?叩く理由、影響、母親に出来ること

「夫がしつけと言って子供を叩く」「やめるよう話をしても、分かってもらえない」と悩んでいませんか?

なぜ子供を叩いてしまうのか。その背景には「時には叩くことも必要」という父親の考え方だけではなく、様々な要因が複雑に絡み合っています

子育てで明らかになる、夫婦間の考え方の違い。「分かり合えない」と諦めてしまっては、子供に影響が出てきた時に後悔したり、父親の行為が虐待に発展するかもしれません。

この記事では、父親が子供を叩いてしまう理由、子供への影響、母親が出来ることなどについて、まとめています。

力づくではなく、言葉によるコミュニケーションで、家族が対等に話し合える関係。この記事が、そんな関係を築くヒントになれば幸いです。

なぜ父親は子供を叩いてしまうのか

父親に限らず「しつけでは、体罰が必要な時もある」と考えている人は意外に多いことが、民間の調査結果でも分かっています。

ですが「叩く」という、子供の体を傷つける行為は、しつけではありません。子供が「傷つけられた」と感じれば、親は軽く叩いたつもりでも、子供の心に深い傷を残します。

背景には、父親自身の心の問題、家庭環境などの問題があり、様々な要因が重なっています。

では、父親が子供を叩いてしまう5つの理由について、見ていきましょう。

1.育児について学ぶ機会が少ないから

「言う事を聞かないなら、叩くしかない」父親の言葉の背景には、「子供にどう接したら良いか分からない」「叩く以外の方法を知らない」という事情もあるようです。

「母親学級」など、妊娠中から育児に関する知識を身につけてきた母親に対して、父親が育児について学ぶ機会はそれほど多くありません。

たとえば、まだ言葉の分からない子に、いくら説明しても理解できないのと同じように、子供の発達段階に合っていないことをさせようとしても、出来ないのは当然です。

そういう子育ての知識がないと、「なぜ出来ないのか」と子供を叱ったり、「子供は良く分からない。口で言っても、通じない」というイメージを持ってしまうのではないでしょうか。

また母親は、乳児検診などで、他の子供の様子を見る機会も多く「他の子もみんな同じような感じなんだ」と安心することもありますよね。

その点、他の子を見る機会の少ない父親だと「この年齢の子供って、こういうもの」という視点が持ちづらいのかもしれません。

2.自分に対して自信がないから

自分に自信がない父親は、体罰による子育てをする傾向があるそうです。

子供が言う事を聞かない時「自分は父親として役に立たない」と、自分を否定されたように感じます。そのため、何としても言う事をきかせようと手が出てしまいます。

しかし、たとえばイヤイヤ期になると、子供は簡単には言う事を聞きません。親がムキになるほど、余計に子供が反発し、手に負えなくなるという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

子供が言う事を聞かない時、叩かなくても対応できる方法はあります。子供の発達について知り、「こんな時は、どうしたら良いか」状況に応じた具体的な関り方を知ることで、父親も自信を持てるようになるかもしれません。

「叩かない子育て」については、厚生労働省のパンフレットに分かりやすく書かれています。

体罰等によらない子育てを広げよう!(PDF)(9頁~《具体的な工夫のポイント》に子供との関わり方の例が紹介されています。)

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/pamphlet.pdf

3.自分の親から叩かれて育ったから

母親よりも父親の方が、叩かれて育つ場合が多く、その背景には「男の子は将来家族を守っていくのだから、厳しく育てないと」という考えが影響していると言われます。

「自分は親に叩かれて育った。子供は叩かれることで、それが悪いことだと学ぶのだ」と言う父親もいるでしょう。

しかし、しつけと体罰は違います。2020年4月から、体罰禁止法も施行されました。叩かれて育った父親も「子供の体を傷つけることは、しつけではない」と認識を変える必要があります。

また、父親自身が、発達障害などの育てにくい特性を持つ場合があり、そのために子供の頃、体罰を受けていた可能性もあります。

4.ストレスを抱えているから

子供を叩く父親は、仕事へのストレス経済的なストレス育児ストレスなどを抱えていることが少なくありません。

「うちの子こうなんだけど、〇〇ちゃんはどう?」と周りの人に相談することも多い母親に比べ、父親は人に相談することに抵抗がある人が多く、ストレスをためやすいと考えられています。

多くのストレスを抱えていると、心がギリギリの状態になってしまいます。父親の性格や家庭の事情など様々な要因が重なり、子供のちょっとした言動が引き金になって、思わず手が出てしまう可能性があります。

そのため、実は子供には関係ないイライラを、子供にぶつけているだけの場合も少なくありません。子供へ投げつけた言葉には筋が通っていないことも。

子供が2人、3人と複数いる場合も、父親のストレスは増え、手をあげることが多くなるようです。子供が多いほど母親も忙しくなり、夫のことを気にかける余裕も持ちにくいと考えられます。

5.叩かれると、子供は言うことを聞くから

叩かれた子供は怖くなって、言うことを聞きますよね。子供が言うことを聞くと、親のイライラした気持ちも治まるため、良くないと分かっていても、子供を叩くことを止められなくなってしまうことがあります。

一方、子供は時間が経てば、同じことを繰り返します。子供は叩かれた怖さで固まってしまい、なぜ叩かれたのかを理解できていないからです。

心配なのは「叩く」行為を繰り返すことによって、親の感覚がマヒしてしまうことです。そうなれば、親の勝手な理由で自分を正当化し、子供を叩くようになります。

体罰による影響は?

体罰により、子供はどのような影響を受けてしまうのか、心配されていると思います。

厚生労働省のリーフレット「愛の鞭ゼロ作戦」によると、幼児期の体罰による影響は、幼児期だけにとどまらず、成人にな ってからも続く可能性があるそうです。体罰による影響として、次の4つが書かれています。

1.子どもから親への信頼や愛情が損なわれる

2.うつ・著しい不安・多動など、精神的な不安を持つ

3.周りの人を傷つけるなどの反社会的な行動が増加する

4.感情的にキレやすく攻撃性が強くなったりする

体罰は、子供の将来にわたって、深刻な影響を与えてしまうことが分かります。本項では、最初の2点について考えていきます。

1.子どもから親への信頼や愛情が損なわれる

体罰を受けた子供は「いつもは優しいお父さんが、なぜこんなことをするんだろう」と、訳が分からず「怖い」「悲しい」という気持ちだけが残ります。

叩くしつけが繰り返されるうち、「どうしたら叩かれないのか」「いつ叩かれるか」と常に緊張や不安で落ち着かなくなります。

信頼できるはずの父親と一緒にいても、リラックスできず、父親は「自分のことを愛していない」と感じてしまいます。

このことにより、子供の中に「人を信じる心」が育たなくなってしまいます。社会に出て、対人関係を築いていくための土台が失われてしまうのです。

体罰は、子供の心が健やかに育つのを阻み、生きていくための力を奪ってしまいます。

2.うつ・著しい不安・多動など、精神的な不安を持つ

体罰を受けた子供には、うつ病や多動といった精神的な症状が見られることが少なくありません。

体罰により、こどもの心は不安定になります。叩かれるのを恐れて、自分の気持ちを口に出せなくなり、自分の本当の気持ちを閉じ込めてしまいます。

体罰を受けた子供の体は、これ以上叩かれる痛みを感じたり、辛い出来事を認識したりするのを防ごうと、脳の一部が萎縮して、自分を守ろうとします。そのために、精神的な症状が見られるようになります。

多動などの子供は「落ち着きがなく、じっとしていられない」「言う事をきかない」などの特性のために、親から強く叱られることがあります。

しかし、叱られたことにより、余計に問題行動が増えてしまい、親のしつけがエスカレートしたり、虐待につながることもあります。もとから多動だったのか、体罰の結果、多動になったのかどうかは判断が難しいそうです。

このように、体罰を受けることにより、子供は心や脳に深刻な影響を受け、精神的な問題を抱えることになります。大人になってからも治療することは出来ますが、成長期のうちに専門機関を受診し、回復させていくことが望ましいと考えられます。

父親が子供を叩くとき、母親の出来ること

父親が子供を叩く時、母親のあなたは、どうしていますか?

「やめるよう説得する」「子供の側に行って守る」「父親を刺激しないようにする」など、考えうる最善の方法をとられていると思います。

どのような形であれ、母親として「子供を守る」という姿勢を貫くことが、悲しみを抱える子供にとって、何より大切なことだと思います。

一方で、大人である父親の行動を変えるのは、簡単に行かない場合が多いと思います。第三者に協力を求めることも、母親としての重要な役目ではないでしょうか。

1.父親より先に母親が動く

「叩いてはいけない」と言われても、父親はどうしたら良いか分からないかもしれません。子供が言う事をきかない時、まず母親が、子供と言葉でコミュニケーションをとるよう心がけましょう。「言葉によるしつけ」を父親に示すことが出来ます。

また、父親より先に動くことで、叩く機会を作らないことにもつながります。

子供に対して感情的に叱ってしまいそうな時、「子供を傷つけないために、親はその場からすぐに離れましょう」と良く言われます。ですが、父親自身が叩くことを悪いと思っていない場合、自分から身を引くことは難しいと思います。

母親が先に子供に接し、別の部屋に連れていく(お風呂に入れる、一緒に出掛ける)などにより、父親と子供との距離を離せるかもしれません。

子供への接し方としては、子供の行動に口を出しすぎないことも必要です。「汚れるから止めなさい」などと、子供が何かやろうとする前から止めるのではなく、危険なことでなければ、子供が失敗し、自ら学んでいく様子を見守ることも大切です。

自分のやりたいことを否定され続けると、子供は反発して問題行動を起こしたりしますが、子供の行為を見守ることで、そういった親子の衝突も減らせるかもしれません。

また、子供に注意していることを親の自分がちゃんと出来ているか、ふり返ってみましょう。私はいつも反省することですが、子供に注意した行動を自分も取っていることは、意外と多いものです。

「子供には注意したけど、自分も出来ていないな」と思えば、一方的に子供を叱りつけるような事には、なりづらいです。

2.信頼できる第三者に話を聞いてもらう

最初は勇気がいるかもしれませんが、「子供を守るため」と思えば踏み出せるのではないでしょうか。一人で抱え込み、一杯一杯だった心の負担も、ぐっと減るのを実感できると思います。

第三者にアドバイスをもらったら、その内容を父親と共有できるといいですね。特に専門知識を持った方のアドバイスには説得力があり、父親に伝わりやすいと思います。

虐待を防ぐために大切なことは、まず親が「自分のやっていることは、おかしいのか?」ということに気付くことだそうです。第三者の意見を聞くことにより、父親が気付きを得ることが大切だと思います。

先に見てきたように、父親が子供を叩いてしまう背景には様々な要因があります。いずれの場合も、母親が1人で解決するには難しいことが多いのではないでしょうか。

まずは保健師さんなどに相談し、どうしたら良いかを一緒に考えてもらうのが良いと思います。

3.父親が疲れているなら、話を聞いてあげる

母親も疲れているのに、と言いたいところですよね。しかし、お互いに疲れがたまったままでは、叩かない子育てに変えていくことは難しいのではないでしょうか。子育てにはエネルギーが必要です。

話を聞くのが難しければ、日々の様子を気にかけてあげるだけでも良いと思います。ふと気付いたことがあれば、声をかけたくなると思います。

また、子供を叩いてしまった後、父親は子供に謝ることが難しいかもしれません。

もし父親の気持ちを聞くことが出来たら、「パパは〇〇のことが大切だから、ケガをしないように注意したかったんだね」などと、父親の気持ちを子供に伝えてあげてはどうでしょうか。

父親の心が軽くなり、父親自身が充実した日々を送ることが、子供にも良い影響を与えていくはずです。

子供を守るために

「父親が子供を叩くようになった」「何とかしなければ」と母親として悩み、試行錯誤しているうちに、子供に対する「体罰」が何度も繰り返えされているなら、第三者や専門機関に相談してください。

そのままでは、大けがや虐待に発展する可能性もあります。先に触れたように、子供への不適切な関わり方により、子供の脳に影響が出ることも分かっています。まずは子供を守ることが大切です。

児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いち・はや・く)」

(通話料無料。匿名でも相談でき、相談した人の秘密は守られます。お近くの児童相談所につながります)

父親が、子供に対して手をあげてしまうことを「悪いこと」と知り、本当はやめたいと思っているなら、第三者等の支援を受け入れることによって、立ち直ることができるそうです。このような父親は「グレーゾーン」と言われます。

一方、手をあげることを繰り返すことで、感覚がマヒしてしまい、叩くのは「悪いことではない」と考えている人は「イエローゾーン」。自分の行為を正当化し、周囲の言葉に耳を傾けるのが難しい状態です。第三者の協力なしに問題を解決することは困難です。

「うちのしつけ、大丈夫かな?」と疑問を持ったら、相談してください。「グレーゾーン」の父親も行為がエスカレートすることにより、「イエローゾーン」になることも。

母親自身も守るために

自分の大切な子供が、父親に叩かれるのを見るのは、とても辛い事です。父親と話し合っても、子供への「しつけ」が止まらず、無力感を感じているかもしれません。また、母親自身も子育てをしてイライラすることはあると思います。

子供が言う事を聞かない時、自分の「イライラした気持ちを切り替えなければ!」「父親の体罰を止めなければ!」と、母親は二重にストレスを抱え、苦しんでいるかもしれません。

母親自身を救う意味でも、第三者に相談することが大切です。

また、夫婦間に意見の違いがあること自体は、悪いことではありません。たとえば子供は「お母さんは優しいけど、お父さんは厳しい」と理解し、母親、父親に対する態度を変えることもありますが、その経験は子供の「社会性」につながるそうです。

子供を傷つけることさえ防げれば、父親と母親が時にはぶつかりながらも、それぞれの考え方を持って子育てを続けていくことは可能かもしれません。

 

最後になりましたが、母親自身もDVを受けている場合は、父親の行為を「悪いこと、おかしいこと」と思えなくなる恐れもあります。ご家族の安全のためにも、外部の協力が必要です。すぐに相談してください。

DV相談プラス(内閣府)

https://soudanplus.jp/

(電話・メール 24時間受付/チャット相談 12:00~22:00)

まとめ

この記事では次のことをお伝えしてきました。

なぜ父親は子供を叩くのか

1.育児について学ぶ機会が少ないから

2.自分に対して自信がないから

3.自分の親から叩かれて育ったから

4.ストレスを抱えているから

5.叩かれると、子供は言うことを聞くから

体罰による影響は?

1.親への愛情や信頼が損なわれる

2.精神的な不安を持つ

(他に、周りの人を傷つけるなどの行動が増える、キレやすく、攻撃性が強くなる)

父親が子供を叩くとき、母親の出来ること

1.父親より先に母親が動く

2.信頼できる第三者に話を聞いてもらう

3.父親が疲れているなら、話を聞いてあげる

子供を守るための相談先 児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いち・はや・く)」

母親自身も守るための相談先 DV相談プラス(内閣府)https://soudanplus.jp/

子育てによって、自分の未熟さが明らかになる時は少なくありません。「自分も子供を叩いてしまったことがある」「いつか叩いてしまうかもしれない」という方もいらっしゃるかもしれません。

私も、自分の子に手をあげてしまったことがあります。上の子が下の子を強く叩いたので、「やめなさい!」と止めたかったのですが、言葉のかわりに手が出てしまいました。

自己嫌悪に陥っている間も、子育ては続いています。父親も母親も完璧ではなく、子供と共に成長していくもの。そう思える強さが、子育てには必要なのかもしれない、と感じます。

子供はママもパパも大好きです。子供と家族を守るため、一人で抱え込まずに、周りの人の知恵を借りながら、私たちは少しずつ、親として成長していければ良いのではないでしょうか。

この記事を書くにあたって、次の書籍、調査結果を参考にさせていただきました。