親の過干渉がもらたす深刻なストレスと影響~子供の力を信じる~

「子供は、まだ何も分からないのだから、親が導いてあげなければいけない」と聞く一方で「子供には、本来自分で育つ力がある、親はそれを見守ればよい」と聞くことはありませんか?

子供をどう育てるかは、家庭によって様々ですよね。

ですが、「わが子が幸せになるために」と、休む時間もないほど習い事をさせたり、「わが子が道を間違えないために」と、子供の意見を否定し続けたり、厳しいルールでがんじがらめにしたり。

行き過ぎた育て方は、時に「過干渉」となって、子供を苦しめ、将来に渡り深刻な影響を及ぼすことが分かっています。

あなたの「わが子のため」は本当でしょうか?

まずは、親の「過干渉」が子供に与える影響を知ることが大切です。

親がこれまでの見方を変え、子供の本来持っている力を信じることができれば、親子共に気持も穏やかになり、良い関係が築いていけるのではないかと思います。

子供にストレスを与える「過干渉」って何?

大人になっても、親の「過干渉」で苦しんでいる人がいます。後ほどお話しますが、その影響は深刻です。

「過保護」はよく聞くけれど、「過干渉」とはどういうことでしょうか?分からない人も少なくないと思います。

「過干渉」は、親なら誰もがそうしてしまう可能性があります。「過干渉」とは思わずに子供に干渉し続けている場合もあります。

まずは、「過干渉」について知ることから始めましょう。

過干渉と過保護の違い

「過保護」と「過干渉」という言葉、子育ての本などで時々目にすることがありますが、同じ意味だと思っている方も少なくないようです。

たとえば、小さな子供の「お母さん、靴はかせて」「お母さん、着替えさせて」という声に「はいはい。」と答えつつ、何でもやってあげる。これをやりすぎると「過保護」と言われるそうです。「過保護」は、子供が求めることを必要以上に与えること、を指します。

一方、子供が頼んでもいないのに、靴をはかせてあげたり、着替えを手伝ったりする。これが行き過ぎると「過干渉」です。「過干渉」は、子供が求めていないのに、親が先回りして「わが子のために」と思うことを与えることです。

この例では、どちらも親の行為自体は同じですが、子供がそれを求めているかどうかが違うのですね。

子供が望んでいることに応えてあげることは、子供の成長にとっては必要なことでもあります。子供が「抱っこして」「着替えを手伝って」と言う時は、その声に応えてあげた方が良い場合も多いようです。本当は一人で出来るけど、親に甘えたいといった場合です。

親によって心が満たされた子供は、自分にも自信を持って、一人でやるようになっていきます。このように、「過保護」は必ずしも子供に悪い影響を与えるものではありません。

一方、子供が頼んでいないのに、親が先回りして、靴をはかせたり、着替えを手伝ったりすることを続けていると、子供が自分でチャレンジする機会を失ってしまうことになります。

親の「過干渉」が続くと、自分では何もできない子供になってしまいかねません。

どんな行為が過干渉になるのか

過干渉には、様々な形があります。

・「この大学、この職業以外は認めない」など、子供の希望を無視して、親が進路を決める

・「勉強が出来ないと良い大学、会社に入れず、幸せになれない」と心配し、子供の希望を無視して、塾に行かせる。

・門限、家の手伝いなど、厳しすぎる「わが家のルール」を守らせ、子供の行動を制限する。

・親の考え方と合わない子供の言動を、非難したり、止めさせたりする。

・子供の交友関係に口を出す

・子供宛の手紙やLINEを勝手に見たり、子供の友達にメッセージを送ったりする。

はたから見ると「やりすぎでは?」「強制されて、子供がかわいそう」と思うようなことでも、親からすると「子供のためにやっていること」と考えている場合が多いそうです。

どの行動も、「子供は親とは別の、一人の人間である」という認識が不足しています。相手がもし、夫や自分の友達でも、相手が望まないことを「あなたのためだから」と強制できるでしょうか。

過干渉をする親の背景

「過干渉」をする親は特別ではありません。先に述べたように「過干渉」は誰でも行ってしまう可能性があります。

子供が赤ちゃんの頃、「どうして泣いているんだろう?」と、オムツを替えたり、授乳をしたり。親は「こうした方がいいかな?」「今度はこうかな?」と、試行錯誤しながら、子供の要求を満たしてあげようと頑張ります。

子供の幸せを願い、色々な情報をキャッチ。「このオモチャを使うと知育になるらしい」「この習い事をすると、運動が得意になりそうだ」と色々なオモチャを与えてみたり、習い事させてみたり。もちろん、そのことが子供の興味や、世界を広げるきっかけになることもありますよね。

しかし、必ずしも子供がそれを望むとは限りません。気が付くと、子供は成長し、「これがやりたい」「あれが好き」「これは嫌」と自分の意思を持って動けるようになります。

子供の成長に目を向けず、本人が望んでないものを無理にやらせれば、誰でも「過干渉」になってしまう可能性があるのです。

核家族化で、一人で子育てをする母親ほど、孤独感や不安感を持っている場合が多いと言われます。

孤独や不安をまぎらわせるため、子供を「自分の思うように育てたい」という思いが強くなってしまい、自分の意見を主張し始めた子供を、素直に受け入れることができない場合もあります。

子供と1対1で向き合う毎日の中、「自分は自分。子供は子供。子供は自分とは違う、一人の人間」という意識を持ちづらくなるのかもしれません。自分と子供との境界線が分からなくなっている、という見方もあるようです。

その場合は、子供を預け、子供と離れて一人で過ごす時間があったり、他の子供達の中にいるわが子を見る機会が作れると良いですね。

「子供が生まれる前、私ってこういうことが好きだったな」と思い出したり、「うちの子は、こういう所があるんだな」と気付くことがあったりして、自分のことも、子供のことも、客観的に見ることができるかもしれません。

過干渉が子供に与えるストレスと影響

もし自分が何か言うたびに「そんな考え方はおかしい」。何かをやろうとすると「止めなさい」と言われたらどうでしょうか?自分が何か決めようとする前に「こっちに決めなさい」と言われたら?

自分の素直な気持ちや率直な意見を言うこと、自分で決めること、それらの自由が制限されるとしたら、相当なストレスになると想像できますよね。

親の考えを押し付けられたり、自分の意見を強く否定されてきた子供は、大きなストレスを抱え、深刻な影響を受けてしまいます。

2020年度から始まった新しい学習指導要領によると、これからの学校教育は、子供達が「生きる力」を身に付けることを目指しているそうです。

「過干渉」により、次に述べるような影響を受けた子供が、どうやって自分の力で生きていくのか。私達は想像してみる必要があると思います。

「自己肯定感」が育たない

自己肯定感は「ありのままの自分でいいんだ」という感覚です。自分の行動に対して、いつも親から「なぜ、出来ないの?」「もっと頑張りなさい」など言われていると、「親の言うとおりに出来ない自分は悪い」「自分はダメなんだ」と思ってしまいます。

自己肯定感がとても低いと、「社会不安障害」と呼ばれる症状に悩むこともあります。「社会不安障害」は、必要以上に「人が自分をどう見ているのか」を意識してしまう病気です。

人前では、過度に緊張して顔が真っ赤になったり、汗をかいたり、手が震えたりします。その症状が出るのを恐れて、人の集まる所や、そういった症状が出る場面を避けるようになり、社会生活が難しくなることがあります。

気を付けたいのは、親自身も自己肯定感が低い場合があるということです。自分に対して「親はこうあるべき」、子供に対しても「子供はこうあるべき」と、理想の姿を思い描く。

上手くいかなかったり、子供がそこから外れるような言動をとると、「うちの子はダメな子供」「自分はダメな親」と考えがちになってしまいます。

「考える力」を奪われる

「親が見ているから、やらない。」「親が見ているから、やる。」

自分の気持ちにしたがい、考えて行動するのではなく、親の決めたルールや賞罰によって行動している子供は、どうしても受け身になり、親の目を気にしながら行動していると言えます。

「考える力」が育っていない子供は、次のような行動をとる傾向があります。

・言われないと何もやらない

・悪いことも、やれと言われるとやってしまう

・悪いことも、見つからなければやってよいと考える

「過干渉」を受けている子供は、空いた時間でさえ、親の指示がないと、何をしたら良いか分からないことがあるそうです。

親の示す行動を常に強制されることで、子供は自分の意思によって行動を選ぶ自由、つまり考える自由を奪われてしまっていると言えると思います。

「気力」を奪われる

大人でも、高い目標を目指しすぎて、頑張りすぎて、疲れてしまった経験はないでしょうか。

「過干渉」な親は、子供の目指すべき目標、進むべき道を、本人の意思や適性とは無関係に決めてしまうことがあります。「テストでは100点をとる」「かけっこは1番をとる」「よい大学に合格する」「大手企業に入社する」など、様々です。

厳しい受験勉強や入社試験を乗り越え、無事に合格。しかし、親が決めた大学や会社に入った途端、目標を見失い、「学校(会社)に行きたくない」などと、無気力になってしまう子供が少なくないそうです。このような症状は、「無気力症候群」「燃え尽き症候群」などと呼ばれます

「無気力症候群」「燃え尽き症候群」は、「過干渉」を受けた子供だけがなるものではありません。勉強や仕事で自ら高い目標を目指し、真面目に頑張り続けた結果、ストレスから自分を守るために、何をする気力もなくなってしまうものだと言われています。

子供は本来、「やってみたい」「知りたい」という好奇心によってチャレンジする楽しさ、「やってみたけど、失敗してしまった!」という悔しさなどを経験しながら、成長していくところがあると、思います。

親が決めた目標ばかりを意識して、真面目に頑張ってしまう子供は、自ら成長するためのエネルギーを「親の望むような自分になる」ために消耗し、生き生きと自分らしく育つ機会を持てずにいるのではないでしょうか。

過干渉の親が気を付けたいこと

子供を思っての行動が過干渉だった…とは、落ち込んでしまう方もいらっしゃるかもしれません。

大切なのは、子供の心に寄り添うこと子供の声を聞くことです。

親が自分の過干渉に気付き、変わろうと思うなら、子供の心も少しずつ、穏やかになっていくのではないでしょうか。

子供の力を信じる

「こうした方が上手くできるのに」「なんでそんなことするの!?」子供の行動がもどかしく感じたり、理解できない時はありませんか?

わが子は小さな頃から、大好きな牛乳を、自分でコップに入れて飲んでいました。ですが、4歳になった頃、コップからあふれるまで牛乳を入れるようになり、床まで牛乳でビショビショにする、という事を繰り返すようになりました。

何を言っても止めない子供。私はただ、どうしたら良いか分からず、先ほどの言葉を繰り返すばかりでした。

冒頭でも触れましたが、子供は本来、自分で育つ力を持っているそうです。成長のスピードは子供により様々ですが、時期が来れば、赤ちゃんは一人で立ち、やがて歩くようになります。親が教えなくても、生まれた時から、そのようにプログラムされているそうです。

親は「自分がやってあげないと、子供は何もできない」と思いがちです。「教えてあげないと、間違った方向に行ってしまうかも」と不安になることもあります。

それは子供の幸せを願うからこそだと思います。大人は環境を整えてあげたら、あとは子供が自分で育つ力を信じ、そっと手を添えてあげる位の気持でいると良いのだとか。

先ほどの話ですが、床まで牛乳でビショビショになる事態は数カ月続いた後、落ち着きました。どのような意味があったのかは分かりませんが、わが子の成長にとっては必要なことだったのだろうと今は考えています。

「子供を信じて見守る」というのは、簡単ではないと感じている方は多いと思います。私も子供の様子にイライラしたり、ついカっとなったりして落ち込むことがしばしばです。

ですが「いつかこの子は一人で生きていかなくてはいけない」と考えたら、自分の側にいる間に、色々な失敗を経験した方が良いとも思えてこないでしょうか。「失敗」を、親自身が怖がらないことも必要だと感じます。

一人の人間として、対等に接する

「〇〇しなさい」夫婦の間では言わないのに、子供に対しては、なぜか上から目線の物言いになってしまうことはありませんか?

大人と子供には、知識や経験の数では圧倒的な差があります。私達大人はつい、子供を自分より劣っていると考えているのかもしれません。

しかし、子育てにおいて、子供を自分より下に見るような意識を持っていると、子供にも伝わり、コミュニケーションを難しくしてしまいます。

子供が言う事を聞かないことは良くありますが、言う事を聞かなかったから、全て悪い結果になるかと言えば、そうでもなかったという経験はありませんか?

「こういうやり方をしたら?」と親がアドバイスしても、子供が自分のやり方を貫き、大成功することもあります。親の考えが、必ずしも正解ではなく、様々な選択肢と可能性があるということを、心にとめておく必要があると思います。

また、親の経験からのアドバイスが、今の時代を生きる子供に、そのまま当てはまるとは限りません。親の視点とは違った見方を、子供から学ぶこともあるかもしれません。子供の間で流行っていることなどは、子供に聞いた方が早いですよね。

わが子の保育園の先生を見ていると、小さな子供でも、一人の人間として対等に接していると感じます。子供の様子をじっと見守り、子供の目を見て、じっくり話を聞いている様子が印象的です。「先生はこう思うよ」ということも率直に話をしてくれています。

子供は保育園で沢山の事を学び、家でも「先生がこう言っていたよ」と教えてくれます。

もし身近に「この人は子供と対等に接しているなぁ」と感じられる方がいたら、子供への接し方に悩んだ時、「あの人なら、どんな風に言うだろう」と想像して真似をしてみるのも良いかもしれません。

いつもと違う接し方をすると、いつもと違う子供の反応が見られます。自分が変わると、子供も変わる、と実感できることが、親としての成長を後押ししてくれるはずです。

まとめ

この記事では、主に次のことをお話してきました。

<子供にストレスを与える「過干渉」とは?>

・過干渉と過保護の違いは「子供が求めていない」点

・「過干渉」の親は「子供のため」と思っている場合が多い

・親なら誰でも「過干渉」になってしまう可能性がある

<過干渉が子供に与えるストレスと影響>

・「自己肯定感」が育たない

・「考える力」を奪われる

・「気力」を奪われる

<過干渉の親が気を付けたいこと>

・子供の力を信じる

・一人の人間として、対等に接する

「過干渉」について調べる中で、私自身も子供に対し「過干渉」な所があったと思い至りました。子供が何度も「やりたくない」と訴えてきた習い事を続けさせてきたことです。子供がストレスを抱えていることも気付いていました。

「習い事、やめる?」と思い切って聞くと、子供なりに色々と考えているようでした。子供は、3週間ほど休んだ後、習い事を再開すると自分で決めました。

子供のためと思って半ば強制してきたことに対し、子供の意見を聞くというのは、本当に勇気がいることだと思いました。子供の人生が大きく変わってしまうような、不安に襲われるかもしれません。

ですが、思い切って一度、親が描いた子供の未来像を手放してしまうと、子供だけでなく、親も気持ちが楽になることがあると思います。他の選択肢が見えたり、子供の気持ちに気付くことができます。

大切なことは、押し付けるのではなく、子供と一緒に考えることではないでしょうか。

読者の方が、これまで頑張ってこられたご自身のことも、お子様のことも、ありのままを認め、信じることで、穏やかで幸せな親子関係を築くことができますように。

この記事を書くにあたり、次の書籍を参考にさせていただきました。